2010年06月27日

異色の演劇ユニット「ポツドール」の看板役者米村亮太朗が語る、 フェイクとリアルの狭間

万年床が四枚並んだ部屋には、吸殻があふれ出た灰皿や、発泡酒の空き缶などが散乱している。
ここに若い男女が7人いて、ある男はテレビゲームに没頭し、ある女は暇を潰す術も知らぬかのように、ただ横たわって腋の下を掻いたりしている。

米村亮太朗が帰ってきた。
くわえ煙草に安っぽい原色フレームのサングラスをかけている。
部屋に転がっていたエロ本を手にした彼は、緩慢な動きで服を脱ぎ捨て全裸になると、傍らの女の頭を掴み自分の性器を咥えさせる。
果てぬうちに気が散ったか、ゲームをしていた男の首をロープで締め上げ、コントローラを強奪する。しかしそれすらすぐに飽きて、後ろで女の股に顔をうずめる男の肛門にライターの火をつけ、笑いころげる。


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ポツドール「夢の城」舞台写真 撮影 曳野若菜

ひとつ屋根の下で、堕落した若い男女の無意味な暴力と気怠いセックスが延々とつづき終わる、ただそれだけの、ひとつも台詞がない芝居。

僕のポツドール初体験は、この異色の無言劇「夢の城」だった。
“ダメな人間の動く標本”を見せられている気がした。

金を払って劇場に来るのは、ある程度文学的な素養を持った“マトモ”な人たちだろう。
観客は、隣家の秘密をのぞき見しているかのように、ひそひそ笑いを漏らしていた。
僕も同じように笑っていたが、もやもやとした不快感が残った。
この不快感は何なんだろう。

米村亮太朗は言う。

「こんな自堕落なギャルとギャル男たちをみてなぜ笑うのか。それはどこかしらお客さんが自分に共通するものを見出すからだと思う。自分もこんな奴らと変わらない人間なんじゃないかって」

米村にそう言われて、不快感の理由がわかった。
マトモな人間である(と、人から思われていたい)僕は、「夢の城」の若者たちとは別の人種である、と上から目線で思っていた。
しかし一方で、欲望むき出しで生きている彼らをうらやましいと感じたことも否定できない。
こんな「夢の城」があるなら行ってみたい。ここで、はたと気付いた。
あ、僕も彼らと同じ欲望渦巻く人間だ、と。
不快感を持ったのは、そのことを自分自身に認めたくなかったからかもしれない。

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ポツドールは、早稲田大学演劇倶楽部を母体に1996年に結成された演劇ユニット。
2000年、台本ナシで俳優がプライベートな感情を持ち出しアドリブで演じる“セミドキュメント”という実験的手法で演劇界に衝撃を与えた。
その後、岸田國士戯曲賞を受賞したり、下北沢の本多劇場を連日満員にするなど躍進。
フェイクたる芝居の中で、人間の奥深くにある業をリアルに表現することを追求している。

「あくまでも芝居していない状態で板に立っている。ただの芝居では、お客さんは距離を感じる。でもこれは作り物ではなくて今この場でほんとうに起こっている出来事なんだと錯覚させれば、その瞬間お客さんは観客じゃなく目撃者になる」

開演から幕引きまで、観客は“何か途方もないことが起こるのではないか”という期待をもって観ている。

「ポツドールは変わったことをやっていると言われる。でも、僕らは自分たちの生活の延長線上にあることをやっているだけ。たとえばドラマみたいな美男美女のかっこいい恋愛なんて、それこそ日常では特殊なケースでしょう。恋愛って本当はもっとドロドロしていて滑稽さや悲しさに溢れているもの。醜い部分も含めて、トータルでちゃんと見せるのが表現者としての誠意なんじゃないかと思う」

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ポツドール「人間♥失格」舞台写真 撮影 曳野若菜


ポツドールは7月、初の海外公演を行う。ドイツの演劇祭に招聘されたのだ。
演じるのは前出の「夢の城」だ。初の海外公演でこの問題作を持ち込むなんて驚いた。
もう少し無難な作品は考えなかったのか。

ポツドールを主宰する脚本・演出家の三浦大輔は言う。

「以前から何度か声がかかっていたけど、求められていたのは他の作品だった。外国語の字幕が出るのはどうなんだろうと断っていた。この無言劇だったら言葉の壁がないし、ダイレクトに伝わるはず」

正直、ドイツの観客の反応はまったく予想できないが、成功を収めて凱旋帰国してもらいたい。
そして、日本で「夢の城」の再演予定はないとのことだが、もう一度あのもやもやとした不快感を味わいたい。

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米村亮太朗(よねむら・りょうたろう)
1977年生まれ、熊本県出身。
早稲田大学在学中の2000年、劇団ポツドール公演「騎士(ナイト)」クラブに参加。以後、全作品に出演する、ポツドールの看板役者。
客演も精力的に行っており、PARCOプロデュース「裏切りの街」(作・演出:三浦大輔)、「ドリアングレイの肖像」(原作:オスカー・ワイルド、構成・演出: 鈴木勝秀)等に出演。
また映像分野でも、映画「銀色の雨」(監督:鈴井貴之)、ドラマ「猿ロック」(YTV)等、多数出演。
三浦大輔初監督作品「ボーイズ・オン・ザ・ラン」(原作:花沢健吾、主演:峯田和伸)や前述の舞台「裏切りの街」でも、三浦の世界観を体現する役者として、脇を固めている。

三浦大輔(みうら・だいすけ)
1975年生まれ、北海道出身。脚本家・演出家。劇団ポツドール主宰。
1996年に劇団ポツドールを結成。ポツドール第13回公演「愛の渦」で第50回岸田國士戯曲賞を受賞。2010年5月、PARCOプロデュース公演「裏切りの街」で作・演出をつとめた。初監督映画「ボーイズ・オン・ザ・ラン」(原作:花沢健吾、主演:峯田和伸)も2010年1月に公開されるなど、舞台に映像に、今後の活動が期待されている。

ポツドール(ぽつどーる)
1996年、演劇サークル「早稲田大学演劇倶楽部」を母体として、10期生の三浦大輔を中心に結成された演劇ユニット。2010年7月にTHEATER DER WELT2010(ドイツ)にて、「夢の城」を上演予定。
劇団ポツドール 公式サイト

M★A★S★H(所属事務所)

posted by 若手 at 00:00 | Comment(1) | TrackBack(0) | ゴメス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ポツドールの芝居を友人に連れられて何度か観にいった事がありますが、確かに普通の芝居とは違いますね。それを言ってしまうと極論まで表現しなければいけなくなるから普通は言わない所に敢えて踏み込むというか、そんな感じですね。人の業をあからさまに見せてしまってるから、受け止める方にも結構ズシンと来てしまって体力消耗しました。

この劇団が良し悪しの判断は私にはつきませんが、何にしろ珍しい劇団ですね。
Posted by JB at 2010年07月03日 13:29
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