2010年12月09日

登山家・栗城史多さん×プロフリーダイバー・篠宮龍三さん 山と海のトップランナー対談

「水深115m、8000mの高峰、その領域は言葉を超えている」


12月6日発売の『週刊プレイボーイ』51号で、登山家の栗城史多(くりき・のぶかず)さん(28歳)と、プロフリーダイバーの篠宮龍三さん(34歳)に対談していただいた。顔立ちも生き方もどことなく似ていると周囲から言われていたというふたりは意気投合。約100分の対談のなかで、『週プレ』の誌面に収まりきらなかった話をここに公開!


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意気投合する篠宮さん(左)と栗城さん(右)。東京・代々木公園内のWIRED CAFE FITにて。
撮影/山本尚明


まずはふたりの略歴を紹介しよう。

栗城史多さんは22歳のときに北米最高峰のマッキンリーを単独登頂して以来、これまで7大陸の最高峰のうち6大陸を登っている。今年2010年9月には、世界最高峰エベレスト(8848m)の単独・無酸素登頂に挑んだが悪天候と体調不良のため断念し、今は再度の挑戦を狙っている。これは実現すれば日本人初の快挙になるが、彼はそれだけに留まらず、「冒険の共有」という前代未聞の試みに挑戦しているのだ。ビデオカメラで自らを撮影しながら登りインターネットで動画を生中継して、エベレストと日本をつなぐという途方もない挑戦である。

一方の篠宮龍三さんは、空気タンクを使わずにフィンと少しのウエイトだけを付けて自らの力で海深く潜る「コンスタントウエイト」という種目で、現在115m(世界歴代5位)という記録を持っている。大学時代に映画『グラン・ブルー』を観てフリーダイビングに目覚め、会社員生活を経て世界一を目指すため2004年にプロに転向。当時もいまも、プロとして活動しているのは彼だけである。

ふたりとも、金もコネもないところから自分の足で歩きはじめ、スポンサーや協力してくれる仲間を集め、夢への道を切り拓いているトップランナーだ。


  *

最後は人のいるところに
帰ってこないといけない



篠宮 栗城さんのチャレンジは、見ているとすごく応援したくなっちゃうんですよね。
   フリーダイビングもそうだけど、山もひとりで行って帰ってくるという孤独な世
   界じゃない? 競技をやっていると、なんでもひとりでやらなきゃっていう気持
   ちが強くなってくるんです。ひとりでトレーニングして、ひとりでスキルアップ
   して、ひとりでお金を集めてというふうにどんどん孤独になっていくものなんで
   すけど。でも、栗城さんの、素直に自分をさらけ出して多くの人と夢を共有する
   チャレンジを見ていて、これからは自分ももっとチームとして動いていく方向に
   シフトチェンジしていきたいなと思いましたね。

栗城 僕も最初は、いまのようにチームで動くのではなく、山を100%感じたいと思っ
   てずっとひとりだけで登っていたんです。でも、ひとりで登ると大きな達成感は
   得られるんだけど、だんだん限界を感じてきたんですね。山を登って、次に向か
   うのはまた山だった…みたいな。これじゃあ、どんどんエスカレートしていって
   最後は死んじゃうんじゃないかというところが見えたんです。それではダメだ、
   山での経験をいかに地上でいかして生きていくかが大事なんだと思って。その頃
   から、動画配信の企画とかが始まったんですね。

篠宮 自分にはもう海しかない、山しかないとなったらとても危険なんですよね。それ
   では何も残せない。海や山で経験したことはけっして異常な体験ではなく、普遍
   的なメッセージとして一般社会で語れると思うんです。だから、最後は人のいる
   ところに帰ってくるということがなにより大切ですよね。僕もひとりで潜ってい
   くわけですけど、いちばん嬉しい瞬間って、一番下に到達したときよりも、水面
   に戻ってきてサポートしてくれる仲間たちが迎えてくれるときなんです。本当に
   「ありがと〜!」って気持ちになる。

栗城 中継のための仲間がベースキャンプにいるわけですけど、ひとりだけで活動して
   いたときには感じられなかったことがいまでは感じられます。篠宮さんは、いま
   の記録は115mですよね。次の目標は?

篠宮 いまの世界記録が124mなので、125m以上のところですね。僕の最終的な目標
   は131mです。この記録は、ウンベルト・ペリザリという僕の師匠のイタリア人
   が、機械を使って潜る種目で最後に出した記録なんですけど、僕はフィンをつけ
   て自分の力で泳いで行く「コンスタントウエイト」という種目でこれにチャレン
   ジしたいですね。

栗城 無酸素で…すごい領域ですね。

篠宮 かなり生死を意識する領域で、究極のチャレンジになりますね。でも、困難な目
   標をたてて、それをいかにしてクリアするか考えるのが面白いんですよ。栗城さ
   んも本(『NO LIMIT自分を超える方法』)に書いてますよね。「成功する確率。
   それがなんの役にたちますか?」って。

栗城 やっぱ、それがロマンですよね(笑)。
   もうエベレストにはたくさんの人が登っていますが、僕は人が見たことのないも
   のを伝えたいと思って、動画配信とか、ほかにも講演会やTVドキュメンタリー
   もやっているんですけど。でも、本当のことを言えば、8000mの世界を100%
   人に伝えることはできないんですよね。篠宮さんの115mの世界も、みんなはわ
   からないじゃないですか? ただ、以前は伝わらないことにもどかしさを感じてい
   たけど、今は全部が伝わらなくてもいいかなって思うんですよ。自分だけ知って
   いる部分があるのもロマンチックだなって(笑)。

篠宮 自分だけが知っている喜びというか蜜の味というかね(笑)。
   どんなに想像力を働かせても経験していないとわからない世界は残りますよね。

栗城 以前、ネパールのポカラという街で、ラインホルト・メスナーさんというイタリ
   ア人の登山家に偶然会ったんですよ。彼は世界で初めてエベレストの単独・無酸
   素をやり遂げた人なんです。スタッフが僕のことを説明してくれて、彼も僕に興
   味を持ってくれていたので、エベレストのことを聞いてみたいな〜と思ったんで
   すけど、聞かなかったんですよ。メスナーさんも言わなかった。それってすごい
   美しいというか(笑)、言葉で聞いてしまうと簡単にヒントをもらってしまうし、
   やっぱり自分で答えを見つけるものなんだと思うんですよ。だからそのときは全
   然関係ない話をして、また会おうねって別れたんです。


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撮影/山本尚明


篠宮 フリーダイビングも、110とか120を超えた選手は、その世界をあまり言葉で話
   さないですよ。僕がいちばん仲良くしているフランスのギョーム・ネリーという
   選手がいて、彼と僕は同じ日に115mという自己最高記録を出したんですけど、
   115mがどれだけすごかったとか言葉では話しませんでしたね。終わってオツカ
   レ!って握手をした瞬間に、ビビッと伝わるんです。握手とハグで、もうすべて
   伝わるんですよ。エベレストのピークをとることも、もう言葉を超えている領域
   だと思います。だから、非常におこがましい言い方ですけど、栗城さんはエベレ
   ストを登頂した後に、メスナーさんにまた会うと思うんですよ。それで、握手を
   した瞬間にすべて伝わると思いますね。話は変わりますけど、僕らが生まれた
   70年代や80年代に、メスナーさんとかジャック・マイヨールが山や海で偉業を
   成し遂げて、多くの日本人は度肝を抜かれたと思うんですよね。でも今、その世
   界に僕ら日本人が追いついてきたというのは、やったぜ! と思うんです。  

栗城 アッハッハ(笑)。そうですね!

篠宮 多くの日本人は常識から外れることを恐れるし、リスクをとらないじゃないです
   か。でも、憧れは外国人にばかり持つものじゃなく、日本人もやってみればでき
   ることもあるし、好きなことをやっても生きていけるんですよね。

栗城 ネパールなどの山岳地帯に行くと、貧しい地域も多いんですよ。日本みたいに
   ちょっと歩けばコンビニがあって、100円出せばオニギリが買えるような国はな
   かなかない。いまは就職難とか不景気と言われているけれど、お金はなくても携
   帯電話は持っていたりとか、すごく恵まれていると思うんです。だからいろんな
   ことにチャレンジできる。インターネットを通して自分しか持っていない感性や
   価値観を、それを必要としている人に伝えたり。本当は今の時代、若い人はもっ
   とやりたいことができると思うんですよ。


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撮影/山本尚明

  *

結果に執着しないということ

篠宮 エベレスト登頂に失敗したときにはすごく悔しいんだろうけど、栗城さんは失敗
   をトータルで考えられているように見えます。栗城さんはいま28歳ですよね? 
   僕が28歳のときは、プロになって間もないときで大スランプだったんですよ。
   エゴのかたまりだった。プロになったんだから結果を出さなきゃとか、誰よりも
   練習しているんだからうまくいくはずだとか、執着すればするほど失敗を繰り返
   してスランプに陥っていったんですね。でも、栗城さんはまだ若いのに、結果に
   執着せずに、失敗しても飄々とまた行ってきます!みたいな雰囲気がすごいと思
   いますね。

栗城 当然失敗して帰ってくると山岳の先輩やいろんな人にいろんなことを言われるん
   ですけど、要は失敗やスランプをどうとらえるかが大事なんだなと思います。
   そういうものがあるから次が光り輝くと思うし。いま、僕はまだもう一歩の踏ん
   張りが必要なところにいるんだと思います。もう一歩超えたところにチェンジし
   ていかないといけない時期なのかなって。ところで、フリーダイビングの場合は、
   インターネットで中継するっていうのは難しいんですかね?

篠宮 カメラがちゃんとセットアップされていればできます。ヨーロッパでは生中継で
   飛ばしてTVで見せたりもするし。でも、世界記録を生中継っていうのはまだやっ
   ていないから、これをやったら面白いですね。

栗城 是非観てみたいですね。

篠宮 でも、ブラックアウト(失神)する可能性もあるので、それを全世界の人に見て
   もらう覚悟はあるのかと(笑)。
   でも、リアルタイム感というのは、これからの時代のポイントのひとつになって
   くると思うし、今やってるぞという感覚を共有できるのは面白いですよね。

栗城 ものすごくお金かかりますけどね(笑)。
   僕は3年前から動画配信を始めたんですけど、当時はUストリームもまだなくて、
   いろんな企業に企画を持ち込んだけど最初は誰も相手にしてくれなくて、借金し
   てむりくりやってました。極地用の中継のシステムをゼロから作ったり、米軍用
   の機材を使ったりとか。今年はエベレストからの生中継に成功したんです。
   でも、技術が進歩していくうちにアイフォンひとつで中継やる人が絶対出てくる
   と思うんですよ。エベレストの頂上とかから。

篠宮 エベレストなう、ですね。

栗城 それをやられたら正直、悔しいですね(笑)。


   ☆ 


(プロフィール)
栗城史多
1982年生まれ。北海道出身。04年、北米最高峰のマッキンリーを単独登頂し、登山家になる。07年、ヒマヤラのチョ・オユーを単独・無酸素登頂し、動画配信を始める。09年のダウラギリではインターネット生中継に成功。著書に『一歩を越える勇気』(サンマーク出版)、『NO LIMIT(ノーリミット)自分を超える方法』(サンクチュアリ出版)がある。
栗城史多オフィシャルサイト

篠宮龍三
1976年生まれ。埼玉県出身。大学時代にフリーダイビングに出会い会社員を経て04年にプロ転向。08年、バハマにてアジア人初となる水深100mを達成。09年、ジャック・マイヨールを超える107m、2010年4月に115mに到達。同年6月には自身がオーガナイザーとなり沖縄で世界大会を開催した。著書に『ブルー・ゾーン』(牧野出版)がある。
篠宮龍三オフィシャルサイト


NO LIMIT ノーリミット 自分を超える方法 [単行本(ソフトカバー)] / 栗城史多 (著); サンクチュアリ出版 (刊)
NO LIMIT ノーリミット 自分を超える方法 [単行本(ソフトカバー)] / 栗城史多 (...

ブルー・ゾーン [単行本] / 篠宮 龍三 (著); オープンエンド (刊)
ブルー・ゾーン [単行本] / 篠宮 龍三 (著); オープンエンド (刊)

・撮影/山本尚明
・取材協力/WIRED CAFE〈〉FIT(URL◆http://www.wiredfit.jp/



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