2010年08月16日

写真家・シバノジョシアさんがアイスランドを撮り続ける理由

*それは『春にして君を想う』から始まった*

「行ったことがないのに懐かしさを感じる場所ってありますよね」

アイスランドが舞台の映画『春にして君を想う』を初めて見た時、シバノさんは “既視感”を抱いたという。
ヴィム・ヴェンダース監督の映画『ベルリン天使の詩』へのオマージュもあるという『春にして君を想う』は、老人ホームを抜け出した農夫が幼馴染みの女性と故郷の町を目指して旅する物語である。そして、そこに映し出されるアイスランドの自然の景観は、地の果てを思わせるほど広漠としている。

しかし、シバノさん自身は川崎の工場地帯近くの自然にあまり縁がないところで育ったそうだ。それなのに「帰る場所」であるかのような既視感がある。
おのずと湧き起こった「この感覚ってなんだろう」という疑問。
それがアイスランドへの興味のはじまりとなった。

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きっかけが映画。
その言葉が示す通り、シバノさんはとても物腰柔らかで「世界中を飛び回る」というよりは、コツコツとモノづくりをしている姿が似合う人だ。
実際、写真を撮り出す前は、映画製作を志していたという。

『春にして君を想う』を観たのはシバノさんがまだ19歳の時。その後、27歳の時に勤めていたゲーム会社を辞めて映像制作の道を模索することを決断した。実際に脚本を書き、キャストも用意したのだが、ロケハンをしているうちに、いつしか写真のほうに夢中になった。

フォトグラファーに転身後、調整次第で長い休みの取れるフリーランスの立場を活かし、33才で初めてアイスランドに旅立った。『春にして君を想う』を観てから10年以上が経過していたことになる。それでもアイスランドに対する想いは褪せていなかった。
2007年に初滞在してからは毎年写真を撮りに行っており、今年の春には3年分の撮影をまとめ都内2か所で写真展を開催した。



*アイスランド人の中にある無意識を撮りたい*

シバノさんがアイスランドで撮る写真は、主にひと・街・自然。ひとは特にミュージシャンの写真が多い。色彩豊かで躍動感のあるその写真は、氷の国のイメージを振り払い、実際にそこに住んでいる人たちの体温を感じさせてくれる。また、アイスランドがシガー・ロスやビョークという世界的に有名なアーティストも輩出した、音楽活動の盛んな国であることを思い出させてくれる。

しかし、大自然が取り上げられることの多いアイスランドで、あえてミュージシャンの写真を撮るのはなぜだろうか。


「人が環境によって作られていく部分があるならば、アイスランドのような特異な大自然に囲まれ育っていく人たちは、日々どんな喜怒哀楽をもって生活しているのか。そして、それをどのように撮影していくか考えた時に、ライブの写真であれば、パフォーマンスの中で秘めた内面を無意識にさらけだしていく瞬間が撮れるのではないかと思ったんです」

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マムートのヴォーカリストkata。パワフルな歌声とパフォーマンスが魅力


実際にミュージシャンに焦点を当てることで気づいたことがあるという。
アイスランドでは、音楽マーケットの規模が小さいこともあり、プロとアマチュアの境が薄いので、年齢や職業などにとらわれずに活動しているひとが多い。音楽と人との距離が近く、何かを表現するのに躊躇が少ない。
「アイスランドは精神的に自由な面が日本と比べて多いと思うんです」とシバノさんは言う。

「日本ではまだまだ少数派の意見やライフスタイルを表に出す事が難しい場面が多くあるように思います。でも、アイスランドは少ない人口の中でも、そういったマイノリティに対して公平な社会状況のようです。
昨年、同性愛者を公言する女性首相が誕生したことや、つい最近同姓婚が認められた事が象徴的な事ですよね。男女別姓や男性が育児するのもごく自然な事」




*「鏡」の中に自分を探す*

シバノさんは多くの時間を割いて、アイスランドの大らかでリベラルな雰囲気について話してくれた。とても魅力的な国に思えるが、定住について考えが及んだことは無かったそうだ。


「アイスランドの圧倒的な大自然に何度か身を置いてから、不思議な事に故郷である川崎の工場地帯について考える事が以前より増えました。全て人の手によって造られた環境の不自然さや、そういった物だけが持つ魅力を、アイスランドの大地に立つ事でより際立って感じるようになったのかもしれません。川崎は生まれ育った場所なのであらためて「帰る場所」の一つとして強く感じていますし、アイスランドと並行しながら自分にゆかりのある土地をどう撮影していくか日々試しています」


つまりは、シバノさんにとってアイスランドは安住の地ではなく、刺激を受け、創作意欲を掻き立てられる場所なのだろう。


「日本とアイスランドは全く違う環境や価値観もありますが、同じ島国で火山や温泉、漁業や捕鯨国など共通するキーワードも多い。アイスランドは私の中で鏡のような役割を果たしてくれていると感じます。ですからアイスランドに行くたびに、日本という国の良さが再確認できたり、現在の日本はどんな状況に向かっているのかがクリアに見えてきたりする。日本で生きていくためのヒントをアイスランドに探しにいっているのかもしれませんね。近年は経済崩壊なども体験している国ですし、ポジ、ネガどちらの面でも興味が尽きない国です」

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アイスランド名物・ブルーラグーンと呼ばれる温泉でのライブ

自分の正確な姿を映してくれる「鏡」であるアイスランド。
氷と火山の国に投影して見る日本の姿はどんなものなのだろうか。


「日本が必ずしも不自由な事ばかりだとは思わないけれど、
大切な事や物事の優先順位が見づらくなっているように感じます。
報道やニュースが作りだしている面もあるかもしれませんが、
日本は世界的に見ても個人の選択肢が多種あるにも関わらず、
得体の知れない閉塞感が蔓延しているようにも思います」


シバノさんはアイスランドの在り様を記録するというよりは、写真で自分の伝えたいメッセージを表現しようとしているのかもしれない。

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「個人が情報をしっかりと見定めて選択する事の重要性が高まっているだけに、1つの国の有り方、人の生き方みたいな事をアイスランドの写真を通じて紹介していきたいですね」

「見ていただいた方の気持ちが少しでも軽くなったり、そこから何か新しいアイデアが生まれてきたりするような、写真が現実を変えるような効果を生むことを願って今後も活動していきます」


ひとは郷愁を感じたときに切なくなるものだが、何かに恋い焦がれたときにも同じ様な胸苦しさを感じる。恐らく『春にして君を想う』を見てシバノさんがアイスランドの風景を見て抱いた気持ちは、既視感ではなくて慕情に似たものだったのではないだろうか。そして、対象への思い入れを伝えたい気持ちがあるからこそ、私はシバノさんの写真に惹き付けられたのだろう。


★オナビス/シバノ ジョシアWEB
(写真家のプロフィールやフォトギャラリーはこちらから)
★音楽フェス・アイスランドエアウェイブスツアーWEB
(プレスフォトグラファーとしてシバノさんが同行しているツアーのサイトです)
★ICELANDia・アイスランドブログ
(上記ツアー主催者・小倉悠加さんによる日本初のアイスランド楽曲専門オンラインレーベルの公式ブログ。氷国情報がとっても充実しています!



posted by 若手 at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | ふく子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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